治療家のつぶやき28:膝痛の自己治療

目次

  1. 「経筋13」足の少陽の筋の書き下し文
  2. 近未来の膝痛治療
2013年3月に書いた「治療家のつぶやき14」で順天堂医学部教授の天野篤先生は将来の心臓手術はこんぴゅうたーゲームの様なものに代わってくるだろうと予想していました。
つまり手術そのものはロボットが行い、そのコントロールを医者がゲーム感覚で行うと言うものでした。
事実、最近はある種のガン治療は、ロボットの遠隔操作で行っています。
実に医学の進歩には目を見張る思いがします。

鍼灸の主要適応疾患の一つに膝痛の治療が有ります。
しかし、加齢による軟骨の減少による膝痛は鍼灸では中々改善しない症状です。
患者:自分自身です。 身長:172cm、体重:69kg、年齢:71歳。
主訴:
4か月前に、突然左の膝に痛みを生じた。
痛みは膝蓋骨全体のこともあり、膝の外側(胆経の)の時もあり、内側(胃経)、又脛骨の内側(陰陵泉:脾経の経穴)に痛みを生じることもありました。
現病歴と治療歴:
約30年前に痛みを生じて、当時鍼灸学校に在籍していたので、担当の先生に鍼を行ってもらいました。
鍼は刺激鍼で、膝蓋骨周囲と内部及び大腿部に深張りをしてもらいましたが、数日で痛みは再現しました。
自分でも痛む所に鍼を行っていましたが、一時的な鎮痛はありましたが、痛みが繰り返すばかりでした。
このような時に、経絡治療を行う先生に出会い、治療をお願いしました。
治療は接触鍼で、無痛で刺鍼の感覚が全くないにもかかわらず、膝痛はしだいに改善し、
3、4回の施術で全くなくなりました。
余談ですが、この驚きが経絡治療を学ぶ切っ掛けになりました。

現在(2019年3月)にいたるまでに、3回膝痛になりましたが、数回の自己治療で改善しました。
しかし今回の痛みは頑固でした。痛みを覚えて、2か月以上経過していました。
その間、ほぼ週3回治療を行いましたが、数日間の治療効果しか有りませんでした。
治療法は、「難経」に記載されている4種類の治療法に奇経治療及び経筋13の方法で、
私の知っている限りを全て行いましたが、効果は同じでした。
大学時代からうさぎ跳びやスクワットを限界まで行った経験から、この膝痛は軟骨の
減少が原因であろうことは容易に想像できました。
いつまでも改善しない膝痛に対して、鍼の限界を感じ人工関節を考え始めました。

筋肉痛に対する治療は経験的に「黄帝内経霊枢」の経筋13が参考になります。
「経筋13」足の少陽の筋
「足少陽の筋は、足の第4指(親指が第1指)に始まり、上って外くるぶしに結び、
脛骨の外側を巡り膝の外縁(腓骨頭)に結ぶ。
ここから分岐する1枝は股関節に向かって大腿部の外側を上る。これが二つに分かれて前方の
ものは、大腿の中央の伏兎の上で結び、後方のものは臀部で結ぶ。
直行するものは、季脇(第11肋骨下際)の下の柔らかい部位と季脇に至り、更に腋の 前縁に上り側胸部と乳部に連なる。
直行するものは、上りて腋部に出で、缺盆を貫き足の太陽の経筋の前に出でて、
耳の後ろを循り、額の角に上り頭頂で左右が交わり、下降して顎に行き、再び上行
して頬に結ぶ。
分支は目じりに結び、外維(がいい)となる。
その病は小指の次の指支(つか)えて転筋(てんきん)し、膝外(しつがい)に引きて転筋し、
膝屈伸すべからず。膕(ひかがみ:膝裏)の筋急に前は髀(股関節)に引き、後は尻に引く。
即ち上りて?(びよう:月偏に少)に乗じ季脇痛みて、上は缺盆膺乳に引き、頚の維筋
(いきん)急し、左より右に行けば、右の目開かず、上りて右角を過り、?脈(きょうみゃく)に
並び行き、左は右を絡(まと)う。
故に左角を傷れば、右足用いられず。維筋相交わると曰う。」


この最後の文章である以下の文に目が止まりました。
「故に左角を傷れば、右足用いられず。維筋相交わると曰う。」
40年以上前の事になりますが、右足首を酷く捻挫したことを思い出しました。
ほんの5、6cm程度の段差しか有りませんでしたが、右足が外れて捻挫を起こしました。
痛みで30分位立ち上がれなかった事を覚えています。
座ったまま足首をマッサージをしているうちに関節は見る間に脹れ痛み始めました。
当時の私は、11年滞在していたニューヨークから帰国したばかりで、整形外科や接骨院で
診察してもらうと言う知識が全く有りませんでした。
したがってそのまま放置していました。勿論痛みはほとんど改善しませんでした。

以下の話は、鍼灸師になって30年近い現在にいたっても、なお理由は不明です。

営業で訪れる会社の看板を見上げながら歩いている時、再び歩道の縁石から右足を踏み外して
しまいました。
「ポキッ」と、言う音と共に痛みが一瞬有りました。「アッ!!またやった」と、言う思い
でした。
しかし不思議なことにこの瞬間から右足首の痛みが消えたのです。
以来右の足国の痛みは全く有りません。

「故に左角を傷れば、右足用いられず。維筋相交わると曰う。」
意訳
(足の少陽の筋は、頭頂で交差している。)
右の筋肉は左に連絡しているので、右の額の角が傷つけば経脈全体に影響し左の足が運動
麻痺を起こすのである。
膝の痛みはほとんどあきらめていましたが、上の文章が何故か気になりました。
何故なら、何年か前から、右の額角に軽い違和感が有り、理由が分かりませんでした。
この違和感と足関節の捻挫の記憶が上の文章と繋がり、右の外踝の前方を圧迫しました。
その瞬間の痛みに、驚きました。40年前の捻挫は根本的には治癒していなかったのです。
そこで、右足の少陽の筋の「結ぶ」で痛む箇所に刺鍼すると、左の膝痛が、にわかに
解消したのでした。
2か月の間の痛みは何だったのだろうかと思いながら、今回も又人体の不思議さに驚きました。

2015年6月19日発行「週刊ポスト」の以心伝心の中に以下のような文が有りました。
(抜粋)。
「人幹細胞を使って膝の軟骨を再生させる治療で、患者自身の軟骨の一部採取し、培養し
シート状にして軟骨に貼る治療法です。
8人の患者に行った結果全員が回復した。
臨床研究を行った東海大学医学部附属病院整形外科佐藤教授の話では
軟骨は免疫反応が起こりにくく、海外では他人の組織移植が行われている。
2年後をめどに、他人の組織のを導入を行いたいとの事。」
これは鍼灸の4台疾患の一つがほぼ完全に回復することを意味します。
全ての鍼灸師にとって、鍼灸治療の将来を改めて考えなくてはいけない時代がやって来ました。
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