治療家のつぶやき16


目次

  1. 上工と中巧の違い

上工と中巧の違い
上工、中工、下工について「治療家のつぶやき15」で述べました。
ここでは上工と中工の違いについて考察します。
「難経」の77難には上工と中工の違いについて述べています。

「上工は未病を治し、中工は今病んでいるところだけを治す者」と、あります。
上工は未病を治すとはどう言う意味でしょうか。
77難には続けて以下のように記述されています。
「例えば肝に病があると診断したら、肝の病が脾に伝わることを予見し、先ず脾を充実させてから肝の治療を行う。
これが上工は未病を治すということです。
中工とは肝の病と診断しても、病が脾に伝わる道理を知らず、一心に肝の治療だけにかかわっている者である。」

肝の病が脾に伝わるとは何を意味しているのでしょうか。
「難経」の53難には病の伝わり方とその予後が述べられています。
「病がその勝つところへ伝わる時は死し、その子に伝わる時は生きる。」とあります。
五行説における五臓(肝心脾肺腎)の関係は以下の通りです。
肝は心を生じ、心は脾を生じ、脾は肺を生じ、肺は腎を生じ、腎は肝を生じます。(相生関係)。
又肝は脾に勝ち、脾は腎に勝ち、腎は心に勝ち、心は肺に勝ち、肺は肝に勝つ。(相剋関係) 
つまり、肝の病が脾に伝わるとは相克関係を意味し放置していると病はそれぞれの勝つところへ伝わり最後には死亡するとあります。 従って肝の病が脾に伝わることを避ける必要があります。これが即ち未病を治すことになります。

鍼治療には標治法(ひょうちほう:局所治療)と本治療法の二通り有ります。
標治法は臓腑の変動つまり、五臓六腑の虚実を考えず、痛む所や硬結の有る所に刺鍼を行う治療法です。
上の記述から判断できるように、この治療法を行う鍼師は上工とか中工とか下工などの範疇には含まれません。

経絡治療は一般に、4診法で証を立て、五臓六腑の変動を調整する随証療法です。
4診法とは、@問診A切診(脈診、腹診、切経)B聞診(聴覚、嗅覚)C望診(ぼうしん:顔色、舌診)のことです。
これらを総合して「証」を立てます。「証」とは患者さんの症状であり、治療法です。

例えば証が肝虚の場合、私の治療法は、腎経と肝経の経穴(けいけつ:つぼの意味)を刺鍼します。
5年前の「経絡三次元療法」の概念に辿り着くまで、私の治療法は「69難」型の治療だけでした。
この「69難」型の脈診で立てた証では、肝の病がどのように脾に伝わるのか分かりません。
何故なら「69難」型の治療は、肝虚脾実の証の時、肝虚を補えば脾実が解消できのです。
従って「77難」の解明にたどり着くまで上工の「未病を治す。」の意味が
分かりませんでした。

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