治療家のつぶやき14:
想像について
順天堂医学部教授の天野篤先生は天皇陛下の心臓手術を行ったことで有名な医者です。
先日日本放送の高嶋ひでたけのあさラジの中で将来の心臓手術はこんぴゅうたーゲームの様なものに代わってくるだろうと予想していました。
つまり手術そのものはロボットが行い、そのコントロールを医者がゲーム感覚で行うと言うのです。この話を聞いた時に次のような事を思い出しました。
随分前のことですが、「ミクロの決死隊」と、言う映画が有りました。これは重要人物の身体に
入って患部を治療すると言う話です。
医療チームを潜水艇に乗せ、特殊な光線を照射し、潜水艇とその中に居る医師団をミクロのサイズに
縮小させた後それを注射器で血管に注入し、血管内に入った医師団が患者の患部に進んで行き、治療を
行うといったSF映画でした。
当時の私は一種の驚愕に近い感動を受けたことを覚えています。
この映画と天野先生の話は少し異なりますが、SFの想像に現代医学が限りなく接近して来て
いるように思えて驚きを隠せません。
一方東洋医学は何千年も同じ治療を繰り返して来たために、現在ほとんど新しい治療方法を
見出すことは不可能に近いと言っても過言ではありません。
しかしそれでも東洋医学に携わって来た先人達は、人々の苦しみを少しでも解消出来るよう研鑽し続けて来ました。
明治維新後の1874年、医師を免許制とする制度が導入されました。
1876年には新たに免許を受けようとするものは、「洋方六科試験」の合格が必要であるとの
内務省から通達があり漢方医を志す医師であっても西洋医学を学ぶことが必須とされました。
このために東洋医学特に鍼灸按摩師から医療行為が遠ざかり、患者も又内臓疾患は医者に頼る
ようになったのではないでしょうか。
つまり鍼灸師達は治療対象を変える必要性に迫られたに違いありません。
しかし明治以降の多くの経絡治療家が内臓疾患の治療にこだわるのは、上述した歴史的経過
から医療行為を事実上排斥された無念さと一種の自負ではないかと思うのは私だけでしょうか。
しかし西洋医学の進歩は目覚ましく内臓の疾患を視覚化し、薬や器具の進歩が更に拍車をかけ、
事実上内臓疾患の治療を試みようとする鍼師からその機会も遠ざけてしまいました。
では鍼灸は内臓疾患に関して門外漢になってしまったのでしょうか。
東洋医学は病を是動病(ぜどうびょう)と所生病(しょせいびょう)の二つに分けています。
前者は機能的疾患を、後者は器質的疾患を指します。
つまり前者は気の病とされ経絡治療で比較的簡単に治すことが出来ます。
機能的とは何となく調子が悪い、風邪を引きやすい、疲れやすい、本態性疾患、自律神経失調症など
診断の困難な症状を意味します。
そしてこれらの病が経絡治療の適応症となります。
鍼師は経絡治療を行うことで機能的疾患を改善し続けることが可能です。
「未病を治す」と、言う言葉が有りますが、未病治療を行えば、所生病に移行する前に是動病の
段階で治療が可能です。
上で述べたように東洋医学特に鍼に関して、新治療法の発見はほぼ不可能に近い作業と思われます。
しかし可能性を言うなら、古典を再考することにより新たな発見がまだまだ有るように思えます。
想像をして見て下さい。ある物質を観察している時、ある人は丸いと言いました。ある人は
長方形と、言いました。これは二次元の世界です。三次元の世界から見れば、この物質は円柱で
あると確認出来ます。
三次元的に治療を行わなければ、現在の複雑な社会の中では経絡治療に限界が来るのは
目に見えて明らかです。
経絡治療は行わないと、言う治療家の先生もいるでしょう。運動器疾患だけで充分
であると言う先生もいると思います。
ここで想像してほしいのは、整形外科の医者が行う方法で即ち心経の分布で腰の痛みや足の
痛みを腰椎の何番の神経が云々や患者さんの訴える痛みの箇所あるいは圧痛の有る箇所に直接
刺鍼するだけで治療を終えるなら、上で述べた円柱の二次元治療に陥ります。
例えば、50肩で苦しんでいる患者さんの肩周辺の痛む所に、幾ら刺鍼しても余り効果は
有りません。
これは以前自分が経験し失敗しています。
それよりも腹部や背部の刺鍼が、より一層効果が有ります。
証をたてることでその刺鍼部位を患者さんが教えてくれます。
運動器疾患も最近はロコモティブシンドロームと呼ぶようになりました。これはご存知のように
骨、筋肉、関節など運動に関与する組織の病気の総称です。これらの治療に痛む箇所だけを
刺鍼していたら単に二間を浪費するだけでなく、かんじゃさんにも多大な苦痛を強いることは
明らかです。
整形外科の医者と観点の違う方向から治療を行うのが我々鍼灸師の務めではないでしょうか。
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