健康監理で鍼治療を受けている60台の女性患者さんが、昨年(2014年)の3月下旬に
京都に旅行に行きました。
大変なハードスケジュールで歩き回ったとの事で、二泊三日の旅行を終えて治療院を訪れた時は、
疲れと睡眠不足で衰弱気味でかなり疲労を訴えました。
1週間後の来院時、疲れは回復していましたが、少し膝の痛みを訴えました。
診察すると、右の膝の外側に少し炎症を感じ、若干浮腫も有りました。
75難型の治療を行って、痛みは解消し、炎症と浮腫はなくなりました。
しかし彼女の調理と言う仕事の関係上、立ち仕事を矯正される上、その場所を離れることが
許されないために、膝に負担がかかり続けていました。
したがって、1週間後の来院時には、再び膝の痛みを訴えました。
2回の治療で、浮腫と炎症はなくなりました。
しかし、痛みは治療後には解消しますが、1週間後の来院時には再び痛みを訴えました。
それでも、徐々に痛みは解消の方向に向かっていました。
5月の始め、膝を引きずりながら彼女が来院しましたので、理由を尋ねました。
「昨日、点滅している信号機を見て、急いで横断しようとした瞬間、膝を捻ってしまいました。」
ガッカリして気落ちしている彼女を見て、私もついため息をついてしまいました。
診察するとかなり膝に浮腫が有り、炎症を起こしていました。
それからの治療結果は、一進一退を繰り返しました。
彼女の膝痛は、医者の診断をうけていないので、詳細は不明ですが、原因を私なりに調べてみました。
筋肉の損傷について「Wikipedia」には以下のように記載されています(抜粋)。
「自家筋力の強力な筋収縮により筋肉の部分断裂がおこる。発生要因として、筋肉の疲労、
過去の損傷、ウォーミングアップの不足、急な気候の変化、体調不良、筋力のアンバランス、
柔軟性の欠如などが考えられます。
症状は自発痛や損傷筋の動作痛である。筋の収縮は可能であるが、疼痛のため動かすことが
できないこともある。
また損傷した筋の圧痛、ストレッチ痛や抵抗痛が認められる。」
9月に入ってもまだ膝痛は続いていました。
特に階段を下る時に痛みが強いとの事でした。
「加齢による軟骨の減少が痛みの原因かもしれません。」と、彼女に告げました。
同時に、慢性化したかもしれないと、思いました。
9月の中旬でした。
相変わらず彼女の訴える膝痛に対して解消できない己の未熟さに、やるせなさを感じて
いました。
その日も又、脈診は肝虚脾実と診断しました。ほとんどこれまでの証は肝虚脾実で治療を継続
して来ましたので、無力さを感じました。
何故、この証で改善しないのだろう?
どこかに違いはないのだろうか?
どこかに違いが有るはずだと、自問自答を続けていました。
しかし今思えば、既に脈診の違いについては分かっていたと思います。治療法が不明で、無意識に
その証を避けていたのではないでしょうか。
始めて触れる不明な脈は、無意識に自分の知る脈になるよう帰結しようとしていたのです。
つまり、納得できる証を探しているのでした。
その時の証を述べると、以下のとおりでした。
肺と脾の脈を比べると肺の脈が強いのです。つまり肝虚肺実と言う証でした。
「どんな治療なのか。」と、言う思いが最初に脳裏を去来しました。
その後、「指の位置が間違っているか強弱の加減による違いだろうか」と、試案しました。
しかしまちがってはいないようでした。
だが素直に言いますが、その時点では治療法が分からなかったのです。
今までの脈診は、肝虚脾実(69難型)かあるいは脾実肝虚(75難型)の証だったので、
無造作に証をたてていたのかもしれません。
肺の脈が脾の脈より強いと言う事は、肝虚脾実から肝虚肺実の証に変わることを意味します。
つまり、治療法が81難型に変わることを意味します。
「難経」81の難によれば、
「脈診による刺鍼は、中工のよく侵す誤治であるから、注意すべきである。」と、あります。
上の認識は、後で81の難を紐解いてから得たものです。
したがって、初めての「肝虚肺実」の治療に対する考察は、冷や汗ものでした。
何故なら、その時の刺鍼は、理論的には矛盾であり、同時に正しい方法でもありましたから。
結果は、思いもよらない効果を発揮しました。
翌週来院した患者さんによれば、痛みが半減し、楽になったとの事でした。
半年近く、治療を続けて来たにもかかわらず、一向に効果を現さなかった膝痛です。
「1回の治療で、本当に痛みが半減したの?」と、にわかに患者さんの言葉を信じられなかったのは当然でしょう。
私が驚いていると、
「実は治療中俯せになった時、既に膝が楽に伸ばせるようになったのです。」
患者さんの言葉でした。
結果、3回の治療で全快しました。
今までの経験から頭に閃いた瞬間的な刺鍼でした。
これが、「81難」型の解明を始める切っ掛けなった症例でした。
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