治療家のつぶやき18:刺鍼についてその2


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刺鍼について 続き
「治療家のつぶやき17」で述べましたが、時折遭遇する肝虚の証で、治療結果に満足できる時と、
そうでない場合が有るのは何故だろうかと悩みました。
満足出来ない場合は陰経にいくら補法をしてもその経絡上も腹部の緊張も緩まないのです。
「69難型」の治療しか知らなかった私は全く途方にくれました。眼前に巨大な山が立ち
塞がった感じでした。

講習会に通っている時「75難」の治療法が有ることを知っていましたが、この治療法は
特殊ケースであるとの説明だけで解説は有りませんでした。
したがって、「75難」を読んでみようと思ったのは眼前に立ち塞がる難問を解決しようと言う
積極的な意味はなく、何が書かれているのだろうかと、言う軽い気持ちでした。
ところが、下に記述した「75難」の冒頭の文を読んだ時の驚きは、今でも言葉では言い表せ
ません。

「東方実し、西方虚せば、南方を瀉し、北方を補う」
つまり難経の著者は、「肝が実し、肺虚せば、心を瀉し、腎を補う」と、陰経を瀉法しろと言って
いるのです。

これには驚きました。驚嘆と言っても過言ではありません。
陰経を瀉法すると言う行為は、経絡治療の講習会でも私の読んだ参考書全てでも禁止されて
いましたし、全く発想すら念頭にありませんでした。
眼前の巨大な山が揺れ始め、崩れる予感を感じました。
早速参考書を片手に、「75難」を読み始めました。

「難経75難」の詳しい解説についてはここをクリックしてください。
難経75難は、冒頭で以下の文の意味を問いかけています。
「東方実し、西方虚せば、南方を瀉し、北方を補う」とは、如何なる意味か。
ここでは、木実金虚の例をあげてその治療法として下記の方法を述べています。
南方の火を瀉し、北方の水を補う。

今までの私の脈診は、六部定位の脈診法で虚の脈だけを診ていました。
例えば肺虚肝実の証で、「69難型」で肺虚の治療を行うと、上でも述べましたが、
治療可能なケースとそうでないケースが有ります。
この違いを知るには、脈診を明らかにする必要が有りました。
結果は「75難の解説」で述べた様に、脾と肺が虚し、腎、肝と心が実した時に「69難型」の
治療では病は解消出来ないことでした。

「難経76難」の解説から陰経を瀉法することが可能となった時点で、「69難型」だけに
頼っていた私の治療法は非常に広がりました。当然のことですが、今まで苦労していた治療が
楽になり、臨床が楽しくなりました。
でわどのように治療法が拡大したのかを述べてみます。
肺虚の証で「69難型」の治療法は以下のような組み合わせが成立します。

勝浦甚内著「難行の臨床研究」による脾土の病が肺金に伝変した場合の取穴を列記します。
(1) 肺経の兪土穴に補法。
(2) 肺経 脾経の兪土穴に補法。
(3) 肺経の兪土穴、脾経の経金穴に補法。
(4) 肺経 脾経の経金穴に補法。
(5) 肺経の経金穴、脾経の兪土穴に補法。
(6) 肺経の経金穴、兪土穴に補法。
(7) 肺経の経金穴、兪土穴、脾経の兪土穴に補法。
以上、経穴の組み合わせだけで七つの方法が考えられます。更にこれに原穴 絡穴 げき穴を
加えれば治療法はかなりの数になります。

しかし、ここでは経穴の組み合わせは無視して脾経と肺経の関係だけで考えてみました。

上述したように、「75難型」の治療には陰経の補瀉が必要です。そして陰経を瀉すには、
それに対応する陽経の補法が不可欠です。
この75難の陰経に対する刺鍼の順序が、長年に渡る論争の原因になり、現在に至っている
ことを述べて来ました。
そして、私は、今現在信じられている衍文説は間違いだと、何度も繰り返して来ました。
つまり、刺鍼の順序は治療効果を左右する重要な決定事項なのです。
何度も繰り返しますが、治療はどの経から刺鍼するかで治療効果が違って来ます。
従って「69難型」の治療でも正確な刺鍼の順番が選択されれば効果は増します。それに対応する
陽経の適切な刺鍼は、更に治療効果が増加します。

続く
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