治療家のつぶやき10:補瀉について
補瀉論>
補瀉は特に鍼による経絡治療には最も重要な治療方法です。
「難経」は69難、75難及び81難において、虚には補法を、実には瀉法を行うよう説いて
います。
治療は補瀉を行って実でもなく虚でもない平にするよう身体のバランスをとることです。
実虚の判定は主に脈で診ます。
脈診法は幾つかありますが、私は「六部定位」と言う方法を行っています。
簡単に説明しますと、患者さんの左手の橈骨動脈(手首で脈を診るところです。)に右手の
人差し指を置きます。人差し指に当たるところを寸と言い、中指が当たるところを関と言い、
薬指の当たるところを尺と言います。同様に患者さんの右手の橈骨動脈に左手の人差し指をあて中指薬指を置きます。
これは内臓の状態を脈で診察する方法です。強く抑えて臓を診、軽く抑えて腑の虚実を判定します。
脈診による臓腑の位置づけは次の通りです。
左手の寸関尺は強く抑えると、それぞれ心臓・肝臓・腎臓にあたります。東洋医学では臓の字を
除いて心・肝・腎と言います。軽く抑えると、寸関尺は小腸・胆・膀胱にあたります。
右手の寸関尺は強く抑えて肺・脾・心包(これは診断には必要のないところです)。軽く抑えて
寸関尺は、大腸・胃・三焦(これも診断には必要ありません)。
診断は強く抑えた時の臓の脈を比較して弱い脈を虚とし、強い脈を実とします。腑も同様です。
このようにして得た患者さんの情報が証の決定の一つになります。証とはどのような治療をおこなうかを決定することです。
では虚実とは何でしょうか
虚とは邪気が体内に停滞し、精気が衰えている状態で、実は邪気が体内に充満し、精気もこれに
対抗し得るだけ十分に有る状態です。
虚実についての詳しい説明は
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補瀉の手技は色々ありますが、特に興味深い記述は「難経」の78難でしょう。
78難の抜粋口語訳。
「補瀉の方法は必ずしも呼吸にあわせて鍼の出入りを行うものだけではない
鍼の方法をよく知る者は左手を信じ、知らない者は右手を信じる。
刺鍼時は左手で刺鍼部位を押し按(あん)じ指ではじいき、爪を立て、気を得て鍼を侵入するのが
補法で、鍼体を動かして抜くと瀉法となる。云々。」と刺鍼の補瀉の方法を述べています。
ここで私の興味を引いたのが、次の一説です。
「鍼の方法をよく知る者は左手を信じ、知らない者は右手を信じる。」
参考書では次のような意味になっています。
「鍼をよく知る者は、押し手(鍼先を固定させる手(である左手を信じ、よく知らない者は刺し手(鍼を持つ手)である右手にだけに頼っている。」
この文は左手の使い方が大切であることを述べ、鍼の使い方にはこだわっていないことを意味しています。
何故鍼をよく知る者は左を信じと左にこだわっているのでしょうか。
果たして単に左手の使い方だけの記述でしょうか。
中国では鍼を行う人は左利きがいなかったのでしょうか、
あるいは右利きに矯正されたのでしょうか、
左利きの人が右の手で上の記述のように右手で刺鍼部位を押し按じ指ではじいき、爪を立て、
気を得ることはできないのでしょうか。
当時は女性の鍼師は多分いなかったと思います
結論を言うと、右手では補法を行うための気を得ることができません。
左手で按じ、指ではじき、爪を立てることが必要なのです。
理由は男の左手が陽だからです。
従って女性の鍼師は左手で押し手を作って治療を行うと期待できる治療は不可能です。
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