素問「上古天真論編(じょうこてんしんろんへん)第一」には、養生の意義と具体的な養生法
及び人の成育と盛衰は腎気が関わっていることを、述べています。
要約
黄帝が上古(大昔)の人は皆百歳に至り及ぶまで動作衰えずすこやかに暮らしていたのに、
今頃の人は50年にしてすべての動作が衰えるのは時代や天候が違ったせいか、それとも人々の
養生の道に反れているせいかと岐伯に尋ねているのは興味ぶかいです。
これに答えて岐伯は以下のように答えています。
上古の人は修養の道を知り、天地陰陽の法則に従って自分の身を修養し、食飮は節制し、
立ち振る舞いは適度にし、疲れ過ぎないように心身の調和を保ち健やかであったために、百歳の天寿
を全う出来たのです。
これに対し、今頃の不養生の人は、酒を水のようにむさぼり飲み、異常な行為を常とし、酔っては
性生活を欲しいままにし、色欲の趣くままに精を使い果たし、そのため真気を散じ消耗して精気の充満の
意味を知らずに使い果たし、常に精神を過度に使用し、心の赴くままに享楽に耽り、風雲流水の自然を
楽しみとせず、世俗の楽の中に快楽を求め、酒色に耽るために50歳にして衰えますと、説いています。
また、黄帝は岐伯に人は老年になると何故子供が生めなくなるのかと問う手います。
それに対して岐伯は人の成長発育及び衰退は腎気が関与していることを述べています。つまり
腎気がなくなると、人は老いるのです。
腎気について本編には以下のように述べられています。
腎は先天の真水(しんすい)を蔵し、水を司ります。諸臓腑の水精は胃によって消化吸収された
飲食物より出でた精で、これを初めに受けた諸臓腑は全て腎に注ぎます。腎も先天の水のみであれば、
しばらくしてことごとく尽きてしまいますが、穀気である後天の水精で養われるために天寿の間保たれて
います。従って諸臓腑の後天の精が盛んであれば自然腎精も盛んになり、充分に射精が可能です。
一般に男女共に更年期の前後あたりから、肌の荒れや掌が柔軟さがなくなったと気付いたり、
手足の冷えやほてり(就寝中手特に冬の間、足が熱く、布団から出す行為は冷えです。雪の中に
手を差し込んだ後で、手が暖かくなるのが、ほてりです。冷え過ぎたために、身を守るための自律
神経反射です。)あまり障害とは思われないような症状が先行します。
これが更に進行すると関節部の動きにスムーズさがなくなるのを感じるようになります。特に首、肩関節、股関節などが顕著です。
例えば箸で物をはさみにくくなったり、腰の前後屈が困難になったり、歩く時なんとなく足が
大地を踏んでいないような不安定さを感じることがあります。
これらは関節部の周りの軟部組織が、繊維化あるいは石灰化しているためです。
最近マスコミなどでよく見られるようになったセルライトが繊維化したものと思われます。首の骨をつまむと、分厚くて鋭い痛みがあれば、正にこの状態です。
これを放置していると、さらに進行してオレンジ ピール(オレンジの皮)と呼ばれる、皮膚の
一部が硬くて赤味を帯びたデコボコ状態になります。海に浮かぶ氷山が、海面下で大きく裾が広が
っているように、このオレンジピール常体も、同様に石灰化が皮下で筋肉層にまで広がって行きます。
ここまで進行すると改善するのはかなり困難になります。
高齢者の動作が緩慢になるのは老化と簡単に一蹴されてしまいますが、この原因は、関節周囲の
軟部組織が繊維化し、更に石灰化した結果、これらが神経根あたりで神経を圧迫するために生じ
るためです。ここまで進行する前に治療を受けるべきでしょう。
不老不死は古代から人類の共通した希求する理想と思います。
秦の始皇帝が徐福に命じて仙人の知る不老不死の薬を求めて、蓬莱(ほうらい)の
国へ航海させた事は有名です。
しかし当然ながらそれを見つけることは出来ず、帰国も出来なかったとのことです。(史記)
不老不死は不可能としても、旅立つ瞬間まで元気でありたいと望むのは私たちの理想でしょう。
東洋医学は河を経絡に例えています。河川の治水が国土の維持に重要であるように、健康を
維持するたねには経絡の流れを滞らせないように監理することが大切であると説いています。
河が何かの原因で流れが滞ると、更にそこに色々な浮遊物が引っかかり流れが緩慢になったり、
ゴミが体積して更に流れを滞らせることになります。
これが身体に例えるなら病と言うことになります。
流れが速く水量の多い上流であれば、ゴミは下に流されて滞ることはありません。
しかし下流になるにしたがい、水量は減り流れも緩慢になるとゴミは岸辺辺りに
滞り始めたり三角洲が出来たりします。
つまり河の始まりと終わりを人生に例えると、上流は若い時であり、下流に移るにしたがって加齢と言うことになります
人体も加齢や冷えやストレスなどにより代謝が低下して来ると、代謝産物が滞ります。これは錆のような
ものです。
手足の動きが加齢と共に動かしにくく、緩慢になってくるのはこの代謝産物である錆が徐々に
石灰化して行き、運動神経を圧迫して行くからです。
加齢と老化は少し意味が違います。年を重ねることは全ての生物にとって避けることは出来ませんが、
老化の速度は個人の努力により異なります。
素問第一の「上古天真論篇」は男女それぞれの誕生から成長衰退の過程を述べ、その要因として
腎気の盛衰がかかわっていると説いています。
それによると老化とは腎気が減少して行くことです。つまり腎虚になると言うことです。
従ってアンチエイジングとは腎虚を改善することです。
上古天真論編第一」の書下し文はここをクリックして下さい。
症例
患者 女性、年齢:62歳、体重:48kg
主訴 痛みはないが、箸で物をつかもうとするとつかみにくく、すぐ取りこぼす。病院では
老化と言われた。
所見
第7、8頚椎が分厚く、つまむと痛む。検査のために鍼を侵入すると、1センチ位入った所で、
コツっと硬い物にぶつかった。何度も軽くあてている中に、鍼先が突きぬける感触。更に
続けていると、ガさっと何かが崩れる感触が手に伝わって来た。
繊維化が始まった証拠である。
治療
1回目は腎虚の治療をして後、セルライト著地をして終わる。
腎虚とは患者の症状の一つで、主に下半身の症状を現します。
冷え、腰痛、立ちくらみ、回転性のめまい、などの症状があります。それに対し腎気を補う治療をする。
腎の症状についてはここをクリックして下さい。
結果:3回目の治療で指の動きが楽になって来た。分厚い頚椎も細くなって来た。
つづく
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霊枢経脈第十の解説
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