膀胱経の解説

目次

  1. 膀胱経の書き下し文
  2. 解説
  3. 是動/諸生の書き下し文
  4. 是動病の解説
  5. 所生病の解説


膀胱経の書き下し文
足太陽膀胱経
膀胱足の太陽の脉は.@目の内眥(ないし)に起こり.額に上り.A巓(てん)に交わる.
其支(そのし)は.巓より耳のB上角(じょうかく).に至る其直(そのすぐ)なる者は.巓より
入りて脳を絡(まと)む.還(かえ)り出でてC別れて項を下り.D肩?(けんはく)の内を循(めぐ)
り.脊(せぼね)を挟みE腰中(ようちゅう)に抵(いた)る.入りてF膂(りょ)を循(めぐ)り.腎を絡(まと)い.膀胱に属す.
其支は.腰中より.下りて脊(せぼね)を挟み.臀(とん)を貫き.G膕中(かくちゅう)に入る.
其支は.H?(はく)の内より.左右に別れ.下りて胛(こう)を貫き.脊内(せきない)を挟む.
I髀樞(ひすう)を過ぎり.髀外(ひがい)を循り.後廉(こうれん)より.下りて膕中(かく
ちゅう)に合す.以って下りてJ?内(たんない)を貫き.外踝(がいか)の後(しりえ)に出で.
K京骨(けいこつを循(めぐ)りて.小指の外側に至る.

解説
素問の「靈蘭祕典論第八」(れいらんひてんろん)には膀胱について以下のように述べられています。
「膀胱は.州都(しゅうと)の官.津液(しんえき)藏焉(ここにぞう)す.気化すれば則ち能く出ず.」
州都は都会の地でものが良く集まるの意味。下焦(げしょう)にありて一身の水液がここに集まる。
州都の官とは古代中国の中央集権国家制度で、地方長官に当たります。つまり肝心肺脾腎の兪穴はそれぞれの出先機関に相当し、気を水に変化させて膀胱に送る働きが有ります。浮腫を起こす原因は五臓総てが係わっています。
藏の字の意味は膀胱に上の口がないことも含まれています。
気化すれば則ち能く出ずとは膀胱は上の口なく、ただ注ぐ。そう理(皮膚や肌、臓腑などにある細かい隙間)の如く孔が有り、上焦より下る陽気により湿り入る。又下の口有り出るも、気化による。
一般的に気化とは液体が気体に変わる現象を言います(固体が直接に気体に変わる昇華も含めることもあります)。しかし東洋医学では「気が水に変化することを意味します。
つまり膀胱は諸々の臓腑の働きにより、気から変化させた水(尿)を集めて排泄するのです。

@目の内眥:目頭
A巓:百会(ひゃくえ)
B上角:百會から耳の上角にいたる。: 率谷(そっこく)、浮白(ふはく)、竅陰(きょういん)穴を過ぎり、散じて経脈を養う所以(ゆえん)なり。率谷、浮白、竅陰の三穴は足の少陽胆経の経穴で、足の太陽膀胱経、と少陽の会する所です。
C別れて項を下り、肩?(けんはく)の内を循り、脊(せぼね)を挟み腰中に抵る.:
「十四経発揮」には以下のように記述されています。
「肩後の下を肩?(けんはく)と為す。椎骨を脊と為す、
。  天柱(てんちゅう)より下り、大椎(だいつい)、陶道(とうどう)を過(よぎ)り、却りて
肩?(けんはく)の内を循り、脊の両旁(りょうぼう)を挟み下り行く、大杼(だいじょ)、風門
(ふうもん)、肺兪(はいゆ)、・・・膀胱兪、中膂内兪(ちゅうりょないゆ)、白環兪(はっかんゆ)
を歴(へ)て、是より腰中に抵(いた)り、入り膂を循(めぐ)り、腎を絡み下り膀胱に属すなり。
 大杼より白環兪に至る兪穴は背部第二行である。」
D肩?(けんはく)の内:「はく」は骨偏に旁(つくり)に専と書き、肩甲骨の意味。
E腰中:尻上の横骨を腰と為す、
F膂:背骨を挟む肉。脊を挟むを膂と為す
G膕中:膝の後方で曲がる所を膕(ひかがみ)。委中(いちゅう)と言う限られた穴ではなく
膝の裏側全体をさす。
H?(はく)の内より左右に別れ.下りて胛(こう)を貫き.脊内(せきない)を挟む:
十四経発揮は以下のように記述しています。
「天柱(てんちゅう)より下り、?内(はくない)より左右に別れ行き、下りて?膂(しんりょ)
を貫き、附分(ふぶん)、魄戸(はっこ)、膏肓(こうこう)、神堂(しんどう)、GH(いき)、膈関(かくかん)
・・・胞肓(ほうこう)、秩辺(ちっぺん)、下り尻臀(こうでん)をへて、髀樞(ひすう)を過ぎる也。
其支は、脊の両旁を挟む第三行を為す、相去各三寸之諸穴。」
膂肉(りょにく)を?(しん)と曰(い)う、脊を夾(はさ)むの肉也。」
上の記述では、はく内より左右に別れる経脈の中の一つで外側を第三行としています。しかし
内側の経脈についての記述は十四経発揮の中には見られません。
この内側の経脈はどこを流れているのか疑問が出てきます。仮に第二行に合流するのであれば、何らかの記載が有るはずです。
十四経発揮には第一行についての記述は有りません。
第二行について、原文は「別れて項を下り肩?(けんはく)の内を循り.脊を挟み・・・膀胱に属す」と記述されています。
この文を滑伯仁(十四経発揮の著者)はCのように解説しています。
つまり著者は経脈の流注を詳しく述べているのに何故第一行については何も記載しなかったのかと言う疑問です。
この疑問に対して二つ解釈が考えられます。
一つは不明であった。しかしこれは疑問です。この流注だけが不明であるはずはありません。
もう一つは著者の時代には余りに周知の事実だったので、記載する必要がなかったのではないで
しょうか。
しかも経穴が存在しないので記載しなかったのではないでしょうか。
 このような事を考慮すれば第一行は背骨の直側が有力と思われます。どなたかご存知であれば
ご一報下さい。
I髀樞:大腿骨の上端の関節部。胆経の環跳(かんちょう)経穴である、 
経脈編の中で胆経は環跳について次の様に記載しています。
「脇裏(きょうり)を循り、気街(きがい)に出で.毛際(もうさい:陰毛)を繞(めぐ)り.
横に髀厭(ひえん)髀樞)の中に入る。
経穴書には胆経の「環跳」穴は股関節を屈し、股関節横紋の外端で大転子の前上方陥凹部に当たる
と有ります。
治療では胆経よりも膀胱経として使用することが多いので髀樞と髀厭とは本来は異なる部位かも
しれません。
J?内(たんない):踵の中
K京骨:膀胱経の原穴

是動病/所生の書き下し文
膀胱は足の太陽なり.是(これ)動ずれば.則ち病@頭(かしら)に衝(つ)いて痛む.A目脱(ぬ)くに
似(に)たり.B項拔(ぬく)が如し.脊(せぼね)痛み.腰折に似たり.C髀(ひ)以って曲(まがる)
不可(べからず).D膕(かく)結(むすぼ)る如く.E?(こむら)裂(さく)る如し.是(これ)をF踝厥
(かけつ)と為す.
I 是筋を主として生ずる所の病は.痔.G瘧(ぎゃく).狂癲(きょうてん)の疾(やまい)
す.H頭?(ずしん)項(こう)痛み.I目黄ばみ.涙出で.J?衄(きゅうじく)し.項(こう)背(はい)腰(よう)
尻(こう)膕(かく)?(たん)脚(きゃく)皆痛み.小指不用(もちいられず).この諸病を為し.盛なれば則ち之を
寫(しゃ)し.虚すれば則ち之を補う.以下略

是動病の解説
@頭に衝いて痛む:頭に突き上げるような頭痛。
A目脱くに似たり.:目玉を抜くような痛み。
B項拔が如し:項を引き抜くような痛み。
C髀以って曲不可ず.:股関節が曲がらない。
D膕結る如く.:膝裏がこわばって硬結ができる。
 腰部背部の緊張を弛めるのは委中(いちゅう)であるが、解消できない時は崑崙(こんろん
)で委中の緊張を除く。なお委中の緊張がとれない場合は金門に刺鍼する。。
E?(こむら)裂る如し:こむらがえり
。 上述はラゼーグ徴候をさしています。
注)ラゼーグ徴候は一般に坐骨神経痛みの診断に用いられます。
仰臥位で患者の片側の踵を持ち上げ、膝裏を伸展させると大腿部の後面の坐骨神経が引き伸ばされる時、
その走行に沿って痛みが大腿部背面と膝下まで発現した場合に陽性とします。
F踝厥:これは治療点を言っています。ただし踝そのものと言うよりは、その周辺の硬結を治療すると効果があります。
特に膀胱経の変動による頭痛には最適です。
これらの疾患は是動病ですから、比較的治療は簡単です。

所生病の解説
G瘧:マラリア
H狂癲:癲癇
I頭?(ずしん):しん門(泉門)
J目黄ばみ:水分代謝が悪い。
K?衄(きゅうじく):鼻血鼻水

参考文献
黄帝内経霊枢註証発微 / 馬玄台. -- 東方会,
腎経に続く
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